「マイマイ新子」(髙樹のぶ子)

常に自分の頭と心でしっかり考える新子

「マイマイ新子」(髙樹のぶ子)
 ちくま文庫

「マイマイ新子」(髙樹のぶ子)
 新潮文庫

新子は9歳の女の子。
額の真上のつむじによって
立ち上がる髪「マイマイ」は、
アンテナのようにいつも何かを
キャッチしている。
同級生のシゲルや貴伊子、
妹の光子とともに、
今日も野原を駆けていく新子。
彼女の目に映るものは…。

10年ほど前、
アニメ映画化された本作品、
全26章の1話完結的な構成で、
ちょうど30分アニメを
半年分26話見ているような感じです。
筋書きには
特に大きな起伏はありません。
淡々と過ぎていく中に、
新子の真っ直ぐな生き方と成長を
読み取るのが正しい鑑賞でしょう。

新子の考え方に
大きく影響を与えているのは
祖父の小太郎と父の東介でしょう。
やや鬱屈した性格の祖父からは
「人に優しく接すること」、
大学に勤務している父からは
「なんでも自分の目で確かめること」を
学びます。
正義感の強さからなのですが、
新子はそのために、
叱られるようなことも
いっぱいしでかしてしまいます。
そこがまたほほえましいかぎりです。

大晦日のお使いの帰り道、
いただいたお酒を不良に絡まれ
台無しにしてしまう新子。
正直に話すと不良たちが
補導されてしまうことに心を痛め、
胸の内にしまい込みます。
そのため家族に叱られ、
楽しみにしていた紅白も
観られなくなります。

貴伊子の父親が冷酷な医師でないことを
自分の目で確かめるため、
友達の一平に盲腸のふりをさせます。
それがばれてまたまた新子は
お仕置きを受けるのです。

なぜそのような顛末となるのか。
それは新子が常に自分の頭と心で
しっかり考えて自分の行動を決め、
それを迷わず
実行してしまうからでしょう。
何も考えずに
周囲と同じことをする子どもや、
考えても
実行に移せない子どもであれば、
失敗はしません。
しかし胸が躍るような
素晴らしい経験もできないのです。

それにしても、
周囲から理解してもらえなくても
めげることのない新子は
なんとたくましいのでしょう。
昨今の子どもたちは
理解してもらえなければ騒ぎ立てる、
周りに訴える、心が折れる…。
あまりにもたくましくない子どもが
増えてしまったように感じます。

子どもたちも大人も、
そして周囲の環境も、
今よりもずっと
生き生きとしていたであろう時代、
昭和30年代を描いた秀作です。
中学校1年生に薦めたいと思います。

※「淡々と過ぎていく中で」と
 書きましたが、
 本作品のいたる所に
 「死」の香が立ちこめています。
 「死」を直視する子ども・新子という
 視点で読み進めると、
 さらに深いものが
 見えてきそうです。
 それについては
 何年後かの再読のあと、
 考えてみたいと思います。

(2020.6.24)

hachinekoさんによる写真ACからの写真

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